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家族信託の認知症対策とは?仕組み・費用・始め方を徹底解説

梶原 朋子 / 更新:2026-06-24
家族信託の認知症対策とは?仕組み・費用・始め方を徹底解説
親が認知症になったら、預金口座が凍結されて生活費すら引き出せなくなる——この不安から家族信託を調べる方は本当に多いです。結論から言うと、家族信託は親が元気なうちに財産管理の権限を子へ渡しておく契約で、認知症で判断能力を失っても財産が凍結されない仕組みです。

ただし、最大の落とし穴があります。家族信託は「判断能力があるうち」にしか契約できません。発症して理解が難しくなった後では組めないのです。

この記事では、司法書士事務所で約8年実務に携わった私が、仕組みから費用相場、始め方、そして正直なデメリットまで一通りお話しします。自分の家庭に合うかどうか、判断する材料にしてください。

家族信託による認知症対策とは?仕組みと結論をやさしく解説

認知症対策の切り札!「家族信託」の基本と始め方
認知症対策の切り札!「家族信託」の基本と始め方

まず言葉の整理から。家族信託とは、自分の財産の管理や処分を、信頼できる家族に任せる契約のことです。2006年の信託法改正で、金融機関以外の家族でも受託者になれるようになり、一気に広まりました。

家族信託の基本的な仕組み(委託者・受託者・受益者)

登場人物は3人います。財産を預ける人が「委託者」、預かって管理する人が「受託者」、その財産から利益を受け取る人が「受益者」です。

たとえば、親(委託者)が自宅と預金を子(受託者)に託し、利益は親自身(受益者)が受け取る。これがいちばん多い形です。

ポイントは、委託者と受益者を同じ「親」に設定できること。管理する権限だけを子に渡し、賃料や配当などの利益は引き続き親本人が受け取れます。だから贈与税の問題も基本的に発生しません。

なぜ認知症対策に有効なのか

認知症で判断能力を失うと、本人名義の預金は引き出せず、不動産も売れなくなります。いわゆる「資産凍結」です。施設の入居費を親の口座から出そうとしたら、銀行に止められた——こういう相談を私は何度も受けました。

家族信託なら、契約後に親が認知症になっても、受託者である子が信託の目的に従って管理や処分を続けられます。本人の意思能力に関わらず、財産が動かせる。ここが成年後見制度との決定的な違いです。

契約は親が認知症になる前に結ぶ必要がある

【家族信託】認知症で預金が下ろせなくなるのを防ぐ|埼玉の司法書士柴崎事務所(東松山、川越、坂戸、鶴ヶ島、熊谷)
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これが一番大事な話です。家族信託の契約には、委託者である親の「判断能力」が必須です。

認知症の診断が出ていても、契約の趣旨——何を信託するのか、誰に任せるのか——を理解できる状態であれば契約は可能です。ただし、判断能力を完全に失った後は契約できません。その場合に残された手段は、家庭裁判所を通す「法定後見制度」だけになります。

正直に言うと、私が現場で見てきた「もっと早く相談してくれれば」というケースの大半は、このタイミングのズレでした。元気なうちにしか動けない、と覚えておいてください。

家族信託でできる認知症対策の具体例

抽象的な説明だけだとピンと来ないので、よくある4つのケースで見ていきます。どれも「親が元気なうちに契約しておいたから救われた」典型例です。

家族信託でできる認知症対策の具体例

預金口座の凍結を防ぐ

認知症と分かると、金融機関は本人保護のために口座を凍結します。家族でも引き出せません。

家族信託で預金を信託しておけば、受託者名義の「信託口座」で管理するため、親が認知症になっても子が生活費や医療費を引き出せます。施設費の支払いが止まる事態を防げるわけです。

親に代わって不動産を売却・管理する

【認知症対策】一生払うのは罠?家族信託が「1度きり」で済む理由
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自宅を売って施設費に充てたい。でも親が認知症で売買契約を結べない。こうなると、成年後見制度を使っても自宅売却には家庭裁判所の許可が必要で、手続きが重くなります。

自宅を信託財産にしておけば、受託者の判断で売却を進められます。タイミングを逃さず動けるのは、現場で見ていて本当に大きな差でした。

賃貸不動産の管理を続ける

アパートやマンションを持つ親が認知症になると、賃貸借契約の更新も修繕の発注もできなくなります。空室を埋める判断すら止まる。

信託しておけば、受託者が大家業を引き継ぎます。家賃収入は受益者である親が受け取る設定にできるので、収入の流れは変えずに管理だけ任せられます。

次の世代の相続まで意思を反映する

家族信託は、契約の中で財産を渡す順番まで指定できます。たとえば「自分の死後はまず妻へ、妻が亡くなったら長男へ」という二次相続まで決められる。遺言ではここまで踏み込めません。

次の世代の相続まで意思を反映する

妻が認知症になった場合の備えまで契約に盛り込めるのも、家族信託ならではの柔軟性です。

成年後見制度・任意後見・遺言との比較と使い分け

【家族信託の疑問】認知症でも家族信託契約はできるの?司法書士が解説します!
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「結局、成年後見と何が違うの?」という質問は本当に多いです。ここを整理しないと、自分の家に合う方法は選べません。

認知症対策4制度の比較
項目家族信託法定後見任意後見遺言
契約のタイミング判断能力があるうち判断能力喪失後判断能力があるうち判断能力があるうち
積極的な運用・売却可能原則制限あり原則制限あり不可(生前は対象外)
利益を受け取る人受益者(本人など)本人本人相続人
相続の順番指定二次相続まで可能不可不可一次相続のみ
家庭裁判所の関与原則なしあり監督人が関与なし

家族信託と成年後見制度の違い

成年後見制度は、判断能力を失った後に家庭裁判所が後見人を選ぶ仕組みです。目的は「本人の財産を守ること」。だから、積極的な運用や自宅売却には制限がかかり、裁判所の許可も必要になります。

家族信託は逆に、契約で決めた目的の範囲で柔軟に動けます。守りの成年後見、攻めも可能な家族信託、というイメージが近いです。

任意後見・遺言でできること・できないこと

任意後見は、元気なうちに後見人を自分で選んでおける制度です。ただし発動後は任意後見監督人がつき、財産の処分はやはり本人保護が優先されます。柔軟な運用には向きません。

遺言は、死後に財産を誰へ渡すかを決めるもの。生前の認知症対策にはなりません。財産が凍結される「生きている間」をカバーできないのです。

ケース別の判断基準

私なりの目安をはっきり言います。

ケース別の判断基準

自宅売却や賃貸経営など、生前に財産を「動かす」必要があるなら家族信託。身上監護(介護施設の契約や本人の世話に関する手続き)が中心なら成年後見。死後の財産分けだけ決めたいなら遺言。実際には、家族信託と遺言を併用するケースが多いです。

家族信託にかかる費用と税金の相場

費用の話を曖昧にする記事が多いので、ここは具体的に書きます。家族信託は契約時の実費が中心で、毎月の維持費は基本的に発生しません。

初期費用(専門家報酬・登録免許税・公正証書化費用)

家族信託の初期費用の目安
信託財産の内容により変動します
項目金額の目安補足
専門家への報酬20万~80万円信託財産の1%程度が目安
公正証書作成費用5万~10万円契約書は公正証書で作成
不動産登録免許税5万~10万円不動産を信託する場合

報酬は信託財産の規模で動きます。財産が大きいほど高くなる、と考えてください。

信託組成後のランニングコスト

家族信託は、契約時の実費だけで、その後の維持費は発生しません。成年後見のように後見人への報酬が毎年かかり続ける、という負担がない点は大きな利点です。

ただし、信託の内容を後から変更したり、トラブル相談で専門家に依頼したりすれば、その都度費用は出ます。「ゼロ円で一生」というわけではありません。

贈与税・相続税・不動産取得税・所得税の取り扱い

ここは誤解が多いところ。委託者と受益者を同じ親にしておけば、財産の実質的な持ち主は変わらないため、信託設定の時点で贈与税はかかりません。

贈与税・相続税・不動産取得税・所得税の取り扱い

そして大事なこと——家族信託に節税の仕組みはありません。節税効果は期待しないでください。ただ、資産を凍結させず使い続けられる結果、相続時の財産額が減って相続税が抑えられる可能性はあります。あくまで「結果として」です。

家族信託の始め方と手続きの流れ

いざ始めるとなると、何から手をつければいいか分かりにくい。実際の流れを順番にお話しします。

相談から契約完了までのスケジュール

おおまかには、専門家へ相談し、家族で話し合い、信託の設計を固め、契約書を作って公正証書化し、不動産の名義変更と信託口座の開設を行う——という流れです。

急ぐ理由をもう一度言います。親の判断能力があるうちでないと契約できません。迷っている時間がそのままリスクになります。早めに動いてください。

信託契約書の作成と公正証書化

契約書は公正証書で作成します。公証役場で公証人が関与することで、契約の有効性をめぐる後々の争いを防げます。

自己流の私文書で済ませようとすると、金融機関が信託口座の開設に応じてくれないこともあります。公正証書化は事実上、必須と考えてください。

金融機関での信託口座開設の注意点

信託した預金は、受託者個人の口座と分けて「信託口座」で管理します。これは法律上の分別管理義務です。

金融機関での信託口座開設の注意点

注意したいのは、信託口座の開設に対応していない金融機関もある点。事前にどの銀行が対応しているか確認しておかないと、契約後に口座が作れず立ち往生します。ここは専門家と一緒に詰めておくべきところです。

信託できる財産・できない財産の範囲

信託できるのは、預金(現金)、不動産、上場株式などの財産です。一方で、年金受給権のように本人に固有の権利は信託できません。農地も、農地法の許可が絡んで実務上ハードルが高くなります。

何を信託対象にするかは、家庭ごとに精査が必要です。「全部まとめて信託」とはいきません。

家族信託のデメリット・リスクと失敗しないための注意点

良い面ばかり書くのはフェアじゃないので、正直なデメリットを並べます。ここを読まずに契約しないでほしい、というのが本音です。

節税効果がない・損益通算ができない

くり返しますが、家族信託そのものに節税効果はありません。さらに、信託した賃貸不動産で出た損失は、信託していない他の所得と相殺(損益通算)できません。

複数の収益物件を持っていて損益通算を活用している人は、ここで思わぬ税負担が増えることがあります。賃貸経営をしている方は、税理士を交えて検討してください。

受託者の負担と義務(分別管理・報告・忠実義務)

受託者になる子には、けっこう重い義務がのしかかります。信託財産を自分の財産と分けて管理する分別管理義務、財産状況を受益者へ報告する義務、受益者の利益のために動く忠実義務。

受託者の負担と義務(分別管理・報告・忠実義務)

これは数年で終わる話ではありません。親が長生きすれば10年、20年と続きます。引き受ける子の覚悟が要る、と私は思います。

家族全員の理解と納得が欠かせない

一人の子だけに財産管理を任せると、他のきょうだいが「勝手に使い込んでいるのでは」と疑い始める。これが家族信託で一番多いトラブルの種です。

契約する前に、家族全員で内容を共有して納得しておくこと。面倒でも、ここを飛ばすと後で揉めます。

信託監督人・受益者代理人を置くべきケース

受託者の管理をチェックする「信託監督人」、受益者本人が判断できない場合に代わって権利を行使する「受益者代理人」という役割を契約に設けることもできます。

きょうだい間で不安が残る場合や、受益者である親が高齢で判断が難しくなる見込みがある場合は、第三者の専門家を監督人に置くと安心感が増します。

認知症が進んでからでは遅い?進行段階別の対策タイミングと代替策

「もう物忘れが始まっている。今からでも間に合う?」——この相談が本当に多い。段階ごとに整理します。

軽度・中等度・重度それぞれの判断能力と対応

軽度の段階で、契約の趣旨を理解できるなら契約は可能です。診断名がついていても、その一点で諦める必要はありません。

軽度・中等度・重度それぞれの判断能力と対応

ただし進行すると、契約の意味を理解できなくなった時点でアウトです。中等度から重度に入ると、現実的には難しくなります。判断に迷うなら、その日のうちに専門家へ連絡してください。一日でも早いほうがいい。

判断能力を失った後に取れる代替策

判断能力を完全に失った後、家族信託はもう組めません。唯一の手段は法定後見制度です。

家庭裁判所が後見人を選び、財産を守る形で管理します。柔軟な運用や自宅売却には制約が残りますが、生活費や医療費の支払いは継続できます。間に合わなかったとしても、打つ手がゼロになるわけではありません。

失敗・トラブルになった事例と回避策

私が見聞きした典型的なつまずきを挙げます。

契約書を私文書で作ったため信託口座が開設できなかった。きょうだいに無断で契約を進めて後から関係が悪化した。賃貸物件を信託したら損益通算ができず税負担が増えた。どれも、事前の準備で防げたものです。

回避策はシンプル。公正証書で作る、家族全員に共有する、賃貸があるなら税理士を入れる。この3つを守るだけで、トラブルの多くは消えます。

家族信託の認知症対策に関するよくある質問

相談現場でよく受ける質問を、最後にまとめておきます。

よくある質問

家族信託による認知症対策とは何ですか?
親が元気なうちに、財産の管理・処分の権限を信頼できる家族(受託者)へ託しておく契約です。契約後に親が認知症になっても、預金や不動産が凍結されず、受託者が信託の目的に従って管理を続けられます。利益は親自身が受け取る設定にできます。
費用はどのくらいかかりますか?
契約時の実費が中心で、維持費は基本的にかかりません。目安は、専門家への報酬が20万~80万円(信託財産の1%程度)、公正証書作成費用が5万~10万円、不動産を信託する場合の登録免許税が5万~10万円です。
どうやって始めればよいですか?
まず専門家に相談し、家族で話し合って信託の設計を固めます。次に契約書を公正証書で作成し、不動産の名義変更と信託口座の開設を行います。重要なのは、親の判断能力があるうちにしか契約できない点です。迷っているなら早めに動いてください。

最後にひとつだけ。家族信託は「やるかどうか」より「間に合うかどうか」が勝負です。親が元気な今日のうちに、一度だけでも専門家に話を聞いておく。それが、後悔しないための一番確実な一歩だと、私は現場でずっと感じてきました。

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梶原 朋子

元司法書士補助者(相続・不動産登記実務に約8年携わる) ・ 相続・終活分野の専門Webメディアにて執筆実績多数

司法書士事務所での補助者経験を経てフリーランスライターに転身。家族信託や相続手続きの取材・執筆を専門とし、実際の相談事例や専門家への直接取材をもとに、制度の仕組みから費用の実情まで正確に伝えることを心がけている。

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梶原 朋子
梶原 朋子
司法書士事務所での補助者経験を経てフリーランスライターに転身。家族信託や相続手続きの取材・執筆を専門とし、実際の相談事例や専門家への直接取材をもとに、制度の仕組みから費用の実情まで

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