家族信託の認知症対策とは?仕組み・費用・始め方を徹底解説

ただし、最大の落とし穴があります。家族信託は「判断能力があるうち」にしか契約できません。発症して理解が難しくなった後では組めないのです。
この記事では、司法書士事務所で約8年実務に携わった私が、仕組みから費用相場、始め方、そして正直なデメリットまで一通りお話しします。自分の家庭に合うかどうか、判断する材料にしてください。
家族信託による認知症対策とは?仕組みと結論をやさしく解説

まず言葉の整理から。家族信託とは、自分の財産の管理や処分を、信頼できる家族に任せる契約のことです。2006年の信託法改正で、金融機関以外の家族でも受託者になれるようになり、一気に広まりました。
家族信託の基本的な仕組み(委託者・受託者・受益者)
登場人物は3人います。財産を預ける人が「委託者」、預かって管理する人が「受託者」、その財産から利益を受け取る人が「受益者」です。
たとえば、親(委託者)が自宅と預金を子(受託者)に託し、利益は親自身(受益者)が受け取る。これがいちばん多い形です。
ポイントは、委託者と受益者を同じ「親」に設定できること。管理する権限だけを子に渡し、賃料や配当などの利益は引き続き親本人が受け取れます。だから贈与税の問題も基本的に発生しません。
なぜ認知症対策に有効なのか
認知症で判断能力を失うと、本人名義の預金は引き出せず、不動産も売れなくなります。いわゆる「資産凍結」です。施設の入居費を親の口座から出そうとしたら、銀行に止められた——こういう相談を私は何度も受けました。
家族信託なら、契約後に親が認知症になっても、受託者である子が信託の目的に従って管理や処分を続けられます。本人の意思能力に関わらず、財産が動かせる。ここが成年後見制度との決定的な違いです。
契約は親が認知症になる前に結ぶ必要がある

これが一番大事な話です。家族信託の契約には、委託者である親の「判断能力」が必須です。
認知症の診断が出ていても、契約の趣旨——何を信託するのか、誰に任せるのか——を理解できる状態であれば契約は可能です。ただし、判断能力を完全に失った後は契約できません。その場合に残された手段は、家庭裁判所を通す「法定後見制度」だけになります。
正直に言うと、私が現場で見てきた「もっと早く相談してくれれば」というケースの大半は、このタイミングのズレでした。元気なうちにしか動けない、と覚えておいてください。
家族信託でできる認知症対策の具体例
抽象的な説明だけだとピンと来ないので、よくある4つのケースで見ていきます。どれも「親が元気なうちに契約しておいたから救われた」典型例です。

預金口座の凍結を防ぐ
認知症と分かると、金融機関は本人保護のために口座を凍結します。家族でも引き出せません。
家族信託で預金を信託しておけば、受託者名義の「信託口座」で管理するため、親が認知症になっても子が生活費や医療費を引き出せます。施設費の支払いが止まる事態を防げるわけです。
親に代わって不動産を売却・管理する

自宅を売って施設費に充てたい。でも親が認知症で売買契約を結べない。こうなると、成年後見制度を使っても自宅売却には家庭裁判所の許可が必要で、手続きが重くなります。
自宅を信託財産にしておけば、受託者の判断で売却を進められます。タイミングを逃さず動けるのは、現場で見ていて本当に大きな差でした。
賃貸不動産の管理を続ける
アパートやマンションを持つ親が認知症になると、賃貸借契約の更新も修繕の発注もできなくなります。空室を埋める判断すら止まる。
信託しておけば、受託者が大家業を引き継ぎます。家賃収入は受益者である親が受け取る設定にできるので、収入の流れは変えずに管理だけ任せられます。
次の世代の相続まで意思を反映する
家族信託は、契約の中で財産を渡す順番まで指定できます。たとえば「自分の死後はまず妻へ、妻が亡くなったら長男へ」という二次相続まで決められる。遺言ではここまで踏み込めません。

妻が認知症になった場合の備えまで契約に盛り込めるのも、家族信託ならではの柔軟性です。
成年後見制度・任意後見・遺言との比較と使い分け

「結局、成年後見と何が違うの?」という質問は本当に多いです。ここを整理しないと、自分の家に合う方法は選べません。
| 項目 | 家族信託 | 法定後見 | 任意後見 | 遺言 |
|---|---|---|---|---|
| 契約のタイミング | 判断能力があるうち | 判断能力喪失後 | 判断能力があるうち | 判断能力があるうち |
| 積極的な運用・売却 | 可能 | 原則制限あり | 原則制限あり | 不可(生前は対象外) |
| 利益を受け取る人 | 受益者(本人など) | 本人 | 本人 | 相続人 |
| 相続の順番指定 | 二次相続まで可能 | 不可 | 不可 | 一次相続のみ |
| 家庭裁判所の関与 | 原則なし | あり | 監督人が関与 | なし |
家族信託と成年後見制度の違い
成年後見制度は、判断能力を失った後に家庭裁判所が後見人を選ぶ仕組みです。目的は「本人の財産を守ること」。だから、積極的な運用や自宅売却には制限がかかり、裁判所の許可も必要になります。
家族信託は逆に、契約で決めた目的の範囲で柔軟に動けます。守りの成年後見、攻めも可能な家族信託、というイメージが近いです。
任意後見・遺言でできること・できないこと
任意後見は、元気なうちに後見人を自分で選んでおける制度です。ただし発動後は任意後見監督人がつき、財産の処分はやはり本人保護が優先されます。柔軟な運用には向きません。
遺言は、死後に財産を誰へ渡すかを決めるもの。生前の認知症対策にはなりません。財産が凍結される「生きている間」をカバーできないのです。
ケース別の判断基準
私なりの目安をはっきり言います。

自宅売却や賃貸経営など、生前に財産を「動かす」必要があるなら家族信託。身上監護(介護施設の契約や本人の世話に関する手続き)が中心なら成年後見。死後の財産分けだけ決めたいなら遺言。実際には、家族信託と遺言を併用するケースが多いです。
家族信託にかかる費用と税金の相場
費用の話を曖昧にする記事が多いので、ここは具体的に書きます。家族信託は契約時の実費が中心で、毎月の維持費は基本的に発生しません。
初期費用(専門家報酬・登録免許税・公正証書化費用)
| 項目 | 金額の目安 | 補足 |
|---|---|---|
| 専門家への報酬 | 20万~80万円 | 信託財産の1%程度が目安 |
| 公正証書作成費用 | 5万~10万円 | 契約書は公正証書で作成 |
| 不動産登録免許税 | 5万~10万円 | 不動産を信託する場合 |
報酬は信託財産の規模で動きます。財産が大きいほど高くなる、と考えてください。
信託組成後のランニングコスト
家族信託は、契約時の実費だけで、その後の維持費は発生しません。成年後見のように後見人への報酬が毎年かかり続ける、という負担がない点は大きな利点です。
ただし、信託の内容を後から変更したり、トラブル相談で専門家に依頼したりすれば、その都度費用は出ます。「ゼロ円で一生」というわけではありません。
贈与税・相続税・不動産取得税・所得税の取り扱い
ここは誤解が多いところ。委託者と受益者を同じ親にしておけば、財産の実質的な持ち主は変わらないため、信託設定の時点で贈与税はかかりません。

そして大事なこと——家族信託に節税の仕組みはありません。節税効果は期待しないでください。ただ、資産を凍結させず使い続けられる結果、相続時の財産額が減って相続税が抑えられる可能性はあります。あくまで「結果として」です。
家族信託の始め方と手続きの流れ
いざ始めるとなると、何から手をつければいいか分かりにくい。実際の流れを順番にお話しします。
相談から契約完了までのスケジュール
おおまかには、専門家へ相談し、家族で話し合い、信託の設計を固め、契約書を作って公正証書化し、不動産の名義変更と信託口座の開設を行う——という流れです。
急ぐ理由をもう一度言います。親の判断能力があるうちでないと契約できません。迷っている時間がそのままリスクになります。早めに動いてください。
信託契約書の作成と公正証書化
契約書は公正証書で作成します。公証役場で公証人が関与することで、契約の有効性をめぐる後々の争いを防げます。
自己流の私文書で済ませようとすると、金融機関が信託口座の開設に応じてくれないこともあります。公正証書化は事実上、必須と考えてください。
金融機関での信託口座開設の注意点
信託した預金は、受託者個人の口座と分けて「信託口座」で管理します。これは法律上の分別管理義務です。

注意したいのは、信託口座の開設に対応していない金融機関もある点。事前にどの銀行が対応しているか確認しておかないと、契約後に口座が作れず立ち往生します。ここは専門家と一緒に詰めておくべきところです。
信託できる財産・できない財産の範囲
信託できるのは、預金(現金)、不動産、上場株式などの財産です。一方で、年金受給権のように本人に固有の権利は信託できません。農地も、農地法の許可が絡んで実務上ハードルが高くなります。
何を信託対象にするかは、家庭ごとに精査が必要です。「全部まとめて信託」とはいきません。
家族信託のデメリット・リスクと失敗しないための注意点
良い面ばかり書くのはフェアじゃないので、正直なデメリットを並べます。ここを読まずに契約しないでほしい、というのが本音です。
節税効果がない・損益通算ができない
くり返しますが、家族信託そのものに節税効果はありません。さらに、信託した賃貸不動産で出た損失は、信託していない他の所得と相殺(損益通算)できません。
複数の収益物件を持っていて損益通算を活用している人は、ここで思わぬ税負担が増えることがあります。賃貸経営をしている方は、税理士を交えて検討してください。
受託者の負担と義務(分別管理・報告・忠実義務)
受託者になる子には、けっこう重い義務がのしかかります。信託財産を自分の財産と分けて管理する分別管理義務、財産状況を受益者へ報告する義務、受益者の利益のために動く忠実義務。

これは数年で終わる話ではありません。親が長生きすれば10年、20年と続きます。引き受ける子の覚悟が要る、と私は思います。
家族全員の理解と納得が欠かせない
一人の子だけに財産管理を任せると、他のきょうだいが「勝手に使い込んでいるのでは」と疑い始める。これが家族信託で一番多いトラブルの種です。
契約する前に、家族全員で内容を共有して納得しておくこと。面倒でも、ここを飛ばすと後で揉めます。
信託監督人・受益者代理人を置くべきケース
受託者の管理をチェックする「信託監督人」、受益者本人が判断できない場合に代わって権利を行使する「受益者代理人」という役割を契約に設けることもできます。
きょうだい間で不安が残る場合や、受益者である親が高齢で判断が難しくなる見込みがある場合は、第三者の専門家を監督人に置くと安心感が増します。
認知症が進んでからでは遅い?進行段階別の対策タイミングと代替策
「もう物忘れが始まっている。今からでも間に合う?」——この相談が本当に多い。段階ごとに整理します。
軽度・中等度・重度それぞれの判断能力と対応
軽度の段階で、契約の趣旨を理解できるなら契約は可能です。診断名がついていても、その一点で諦める必要はありません。

ただし進行すると、契約の意味を理解できなくなった時点でアウトです。中等度から重度に入ると、現実的には難しくなります。判断に迷うなら、その日のうちに専門家へ連絡してください。一日でも早いほうがいい。
判断能力を失った後に取れる代替策
判断能力を完全に失った後、家族信託はもう組めません。唯一の手段は法定後見制度です。
家庭裁判所が後見人を選び、財産を守る形で管理します。柔軟な運用や自宅売却には制約が残りますが、生活費や医療費の支払いは継続できます。間に合わなかったとしても、打つ手がゼロになるわけではありません。
失敗・トラブルになった事例と回避策
私が見聞きした典型的なつまずきを挙げます。
契約書を私文書で作ったため信託口座が開設できなかった。きょうだいに無断で契約を進めて後から関係が悪化した。賃貸物件を信託したら損益通算ができず税負担が増えた。どれも、事前の準備で防げたものです。
回避策はシンプル。公正証書で作る、家族全員に共有する、賃貸があるなら税理士を入れる。この3つを守るだけで、トラブルの多くは消えます。
家族信託の認知症対策に関するよくある質問
相談現場でよく受ける質問を、最後にまとめておきます。
よくある質問
最後にひとつだけ。家族信託は「やるかどうか」より「間に合うかどうか」が勝負です。親が元気な今日のうちに、一度だけでも専門家に話を聞いておく。それが、後悔しないための一番確実な一歩だと、私は現場でずっと感じてきました。
- ANSHIN Kaigo(家族信託で認知症リスクに備える)
- マネックス証券(認知症にそなえた相続対策①:家族信託)
- 心ノ(家族信託は認知症発症後でもできる?)
- Ocean Souzoku(認知症への備えとして家族信託がおすすめの理由)
- 瀬合パートナーズ(認知症対策としての家族信託)
- ジョブメドレー(認知症に備える家族信託とは?費用や手続き)
- マネックス証券(節税効果について)
- ジョブメドレー(手続きと公正証書化)
- Legal Estate(家族信託は認知症でも可能?)
- ANSHIN Kaigo(家族信託で認知症リスクに備える)
- マネックス証券(認知症にそなえた相続対策①:家族信託)
- ジョブメドレー(認知症に備える家族信託とは?費用や手続き)
- 心ノ(家族信託は認知症発症後でもできる?)
- 瀬合パートナーズ(認知症対策としての家族信託)
- Ocean Souzoku(認知症への備えとして家族信託がおすすめの理由)
- Legal Estate(家族信託は認知症でも可能?)
