家族信託契約書の書き方|準備から6つの必須事項まで徹底解説

- 家族信託の契約書には「信託の目的」「信託財産」「受託者の権限」「受益者」「信託期間・終了事由」「残余財産の帰属先」の6つを必ず書く。
- 信託は契約・遺言・自己信託の3つで設定でき、家族信託で一般的なのは委託者と受託者が結ぶ信託契約である。
- 信託財産に不動産が含まれる場合は信託登記が必須で、登録免許税が別途かかる。
- 契約書は公正証書で作成すると内容の真正が争われにくく、実務上はこの方法が多い。
- 条項がひとつ欠けるだけで不動産が売れない・信託口口座が作れないといった事故が起きるため、自己作成は専門家チェックを前提にする。
私は司法書士事務所で約8年、相続と不動産登記の実務に携わってきました。その経験から正直に言うと、家族信託の契約書は「書けるが、完成させるのが難しい」書類です。この記事では6つの必須事項の埋め方を手順で示しつつ、つまずきやすい点まで具体的に解説します。
家族信託 契約書 書き方の結論

家族信託の契約書づくりは、6つの必須事項を家族で話し合って文章化し、公正証書として確定させるのが基本の流れです。
所要時間の目安は、家族の話し合いから公正証書完成まで早くて1〜2か月。難易度は「下書きは初心者でも可能・完成は専門家の関与がほぼ必須」です。
信託は、委託者が受託者に財産を移し、受託者が一定の目的に従って管理・処分する制度です。この仕組みを文章にしたものが信託契約書になります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 前提となる判断能力 | 委託者本人が契約内容を理解できる状態であること |
| 話し合う相手 | 受託者となる家族、受益者、想定される後継受益者 |
| 必要書類の例 | 本人確認書類、不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明書 |
| 設定方法 | 委託者と受託者による信託契約(公正証書化が一般的) |
| 不動産がある場合 | 信託登記が必要(登録免許税が発生) |
1.家族信託契約書作成前の準備と心構え
契約書を書き始める前に、家族信託で「何を解決したいのか」を言語化しておくことが最初の作業です。

私が相談現場で見てきた限り、つまずく人の多くは目的が曖昧なまま条文を探し始めます。先にゴールを決めないと、どの財産を信託に入れるかも決まりません。
信託は契約・遺言・自己信託のいずれかで設定できます。家族信託で一般的なのは、委託者と受託者が結ぶ信託契約です。まずはこの「契約型」で進める前提を固めましょう。
1-1.家族信託とは
家族信託とは、委託者が信頼できる家族(受託者)に財産を託し、受託者が決められた目的に従ってその財産を管理・処分する仕組みです。
ポイントは「財産の名義は受託者に移るが、利益は受益者が受け取る」という構造です。たとえば親の自宅を息子名義で管理しつつ、住み続ける利益は親本人が持ち続けられます。
認知症対策として注目されるのは、この管理権限を判断能力があるうちに移せるからです。本人が認知症になっても、受託者が凍結されない財産として動かせます。
1-2.契約書作成前の心構え

契約書を作る前の心構えとして一番大事なのは、「ひな形を埋めれば終わり」ではないと理解しておくことです。
正直に言うと、ネット上のひな形をそのまま使った契約書を、私は何度も「これでは登記が通らない」「口座が作れない」という相談で見てきました。
家族間の合意も先に固めておきましょう。後で残余財産の帰属先をめぐって兄弟がもめると、せっかくの信託が紛争の火種になります。話し合いの段階で全員の理解をそろえることが、条文より先の作業です。
2.家族信託契約書の6つの必須事項
家族信託の契約書に必須となる記載事項は、「信託の目的」「信託財産」「受託者の権限」「受益者」「信託期間・終了事由」「残余財産の帰属先」の6つです。

この6つは、信託の内容を特定し後日の紛争を防ぐための実務上の基本です。順に埋めていけば、契約書の骨格は完成します。
| 必須事項 | 書く内容 |
|---|---|
| ❶ 信託の目的 | 何のために信託するか(例:委託者の安定した生活と療養の確保) |
| ❷ 信託財産 | 対象財産を特定(現金額、不動産の所在・地番) |
| ❸ 受託者の権限 | 管理・処分・運用でできることの範囲 |
| ❹ 関係者の選定 | 委託者・受託者・受益者・後継受益者を確定 |
| ➎ 信託期間 | 開始と終了事由(委託者の死亡など) |
| ❻ 財産の帰属先 | 信託終了時に残った財産を誰に渡すか |
❶ 家族信託の目的
信託の目的は、契約書の冒頭に「委託者◯◯の安定した生活と財産管理のため」のように、信託全体の方向性を一文で言い切って書きます。
目的は飾りではありません。受託者がどこまで財産を動かしてよいかは、この目的に照らして判断されます。曖昧だと、いざというとき「その処分は目的に合っているか」で揉めます。
具体例:「委託者の認知症等に備え、その財産を適正に管理・運用・処分し、委託者および受益者の安定した生活と福祉を確保すること」。ここまで書けていれば目的の項目は十分です。
❷ 信託財産

信託財産は、対象を後から特定できる程度に具体的に書くのが鉄則です。
現金なら「金◯◯万円」、不動産なら登記事項証明書どおりに「所在・地番・地目・地積」まで正確に記載します。住所表記と登記上の地番は違うので、ここを間違えると登記でつまずきます。
信託財産に不動産が含まれる場合、信託登記が必要です。信託による所有権移転や信託の設定は、登記によって第三者対抗要件を備えます。
うまくいかないときは、不動産の登記事項証明書を取り直して、契約書の記載と一字一句照合してください。これで「物件が特定できていない」という典型的な事故は防げます。
❸ 家族信託で何をするのか(受託者の権限)
受託者の権限は、「管理・運用・処分」のどこまでを認めるかを具体的に列挙して書きます。

ここが実務で最も事故が多い項目です。私が現場で繰り返し見たのは、「不動産の売却」を権限に書き忘れたために、いざ施設費用が必要になっても自宅を売れない、というケース。
自宅の売却を想定するなら、契約書に「信託不動産を売却・換価・処分できる」旨を明記しておく。賃貸するなら賃貸借契約の締結権限も入れておく。やりたいことを先に洗い出してから条文に落とすのが正しい順序です。
❹ 家族信託の関係者の選定
関係者の選定では、委託者・受託者・受益者、そして万一に備えた後継受託者や後継受益者まで決めておきます。
認知症対策の家族信託では、委託者と受益者が同じ「自益信託」が一般的です。親が自分の財産を託し、利益も親が受け取る形です。
注意したいのは、委託者と受益者が違う形(他益信託)にすると、贈与税が課税されることがある点です。誰を受益者にするかは税金に直結するので、ここは安易に決めないでください。
後継受託者を決めておくと、最初の受託者が病気や死亡で動けなくなっても信託が止まりません。ここを空欄にしたまま進める人が多いので、私は必ず確認する項目にしています。
➎ 家族信託期間の設定

信託期間は、開始時点と「いつ終わるか(終了事由)」をセットで書きます。
認知症対策なら「委託者の死亡をもって終了する」とするのが分かりやすい設定です。終了事由が抜けていると、いつまで信託が続くのか不明確になり、後の処理でもめます。
信託期間と終了事由を明確にしておくことは、信託の内容を特定し紛争を防ぐための基本です。ここまで決まれば、残るは終了後の財産の行き先だけです。
❻ 財産の帰属先
財産の帰属先(残余財産の帰属先)は、信託が終わったときに残った財産を誰に渡すかを名前で指定して書きます。

ここは遺言に近い役割を持つ項目です。たとえば「委託者の死亡により信託が終了したときは、残余財産は長男◯◯に帰属する」と書いておく。
帰属先を決めずに信託が終了すると、財産の行き先で相続人同士が対立しやすくなります。私の経験上、この一文の有無が後のもめ事を大きく左右します。
6つすべてを埋め終えたら、契約書の骨格は完成です。この下書きを持って、公証役場との打合せと専門家チェックに進みます。
公正証書で作成すると、契約内容の真正が争われにくくなります。公正証書は公証人が作成する公文書で、作成には事前に公証役場との打合せが必要です。文案や必要資料を整理し、予約してから当事者が署名・押印します。
なお公正証書作成時は、原則として証人2人以上が必要です。費用は公証人手数料令で定められ、信託財産の目的価額が高いほど手数料も上がります。具体額は事案ごとに別表で確認します。
よくある質問
家族信託の契約書の書き方について、相談現場でよく聞かれる質問にまとめて答えます。
よくある質問
最後にひとつだけ。家族信託の契約書は「書ける」けれど「ひとりで完成させない」のが、私が実務で得た率直な結論です。下書きまで自分でやれば専門家への説明もスムーズになり、結果的に費用も時間も抑えられます。まずは6つの必須事項を、家族で話すところから始めてください。
